業者選び10のポイント
以上、家づくりの要となる施工業者を選ぶ際の問題となる点について述べてきましたが、これらのことを踏まえて、業者選びに失敗しないためのポイントを整理してみました。企業規模の大小を問わず、これらのポイントをクリアしていれば一応安心して家づくりのパートナーとしてまかせられると思います。ただし、9、10については、現時点で条件を満たしていなくても、契約に際して留意しておけば問題ありません。
1 地の利を考える
施工効率を高め、同時に気候風土への配慮を考えた場合、できるだけ施工現場に近く地域の事情に明るい業者を選ぶのが賢明です。通常の場合、施工会社がカバーする事業範囲は、事業所を中心に移動半径一時間以内といわれています。事業所と施工現場の距離は仕事の効率、あるいは、問題が生じた場合の緊急対応にも関係してきます。さらに、施工管理や、施工後の維持管理を考れば、近いほどきめ細かな対応が望めます。理想的には30分以内の範囲で選ぶのがよいでしょう。それ以遠の業者を選ぶ場合は、念のため維持管理の対応法などについても確認しておく必要があります。
なお、地域の業者を選ぶ場合の情報源としては、各地域の土建組合や建設業組合などに問い合わせる方法もありますが、客観的な情報は得にくく談合などの危険性も否定できません。客観的な情報を得たい人は、インターネットあるいは市販されている施工会社紹介本などを利用して自分自身で探すことをおすすめします。巻末に、「家づくり援護会」独自の審査により選抜した施工業者を紹介していますので参考にしてください。
2 元請けが望ましい
住宅産業の分業化にともない、産業構造も著しく変化しています。一見同じように見える施工業者でも経営内容はそれぞれ異なっているので、業者選びの際にはそれを見抜くことが必要です。施工業者には元請けと下請け、場合によれば孫請けと何種類かのパターンがあります。元請けは施主から直接注文を受け施工する業者のことです。これに対し下請け、孫請け業者は元請け業者が受託した仕事を廻してもらい施工する会社です。大手ハウスメーカーの施工を担当しているハウスメーカーはすべてこうした下請け、あるいは孫請けです。
元請け業者は規模の大小にかかわらず、自社独自の施工チームと企画力、仕入れルートを持っていて、独立独歩の経営をしています。一方、下請け業者は会社規模が大きくても独自性が乏しく、企画力、現場管理、資材仕入れルートも元請け依存が強いため体力的にも弱く、いざという場合の対応能力は心もとないものがあります。
元請け業者と下請け業者の見分け方は会社経歴書、担当者への質問、施工現場の確認表示板などをチェックしてください。
3 10年以上の事業実績を持っている
元請け業者といっても、地域の中で安定した施工ネットワークを持ちそれを意のままに動かせるようになるためには、ある程度の実績と信頼感を積み重ねることが必要です。建築業界は保守性が強く、新規参入が難しい環境があり、元請けがこけると皆こけるといった運命共同体的な性格があるので、同じ地域である程度の年月、実績を積まないと同業者も相手にしないのです。
さらに気候風土に特徴のある地方では、土地の環境に合った施工法をマスターするのに一定の経験と時間が必要です。一般的に、少なくとも10年程度同じ地域で施工経験を積まないと、地域の業者に信用され、地域の環境に合った住宅をつくれるようにはならないようです。10年という年月はさして長くはないと思えますが、一つの土地で10年の間廃業することなく事業を続けていることは、経営状態を知る上でも一つの目安となります。これは会社の経歴書等を取り寄せれば簡単にチェックできます。
4 経営状態を知る
業者選びの一番の心配は施工途中に会社が倒産しないかということです。施工会社に万一のことがあれば、家が建たないばかりか金銭の損失も並大抵ではありません。業者の経営状態を知らずに安心してまかせることはできません。
業者の経営状態を知る方法として、決算報告書を取り寄せ専門家に分析評価してもらう方法がありますが、肝心の決算報告書が粉飾決算の場合もあり、正確に判断するのは難しいかもしれません。そういう場合、業者の経営状態を察知するいくつかの方法があります。融資先の銀行を訪ね、それとなく経営状態をチェックしてみましょう。また、異常に契約を急ぐ業者も資金繰りに忙しいと判断していいでしょう。さらに、建設以外にいろいろな事業に手を出している業者も要注意です。とくに不安定な事業に手を出している場合、そちらに本業の収益を食われることもあり、一見順調そうでも内情は火の車という例も多く見受けられます。これらは、会社案内を見ればすぐにわかります。とにかく、家づくり一筋で堅実に経営している会社を選ぶのが一番です。
5 仕事場を見る
仕事場を見るといっても、技術的なことや施工の質をチェックするのは専門家でなければできません。仕事場を見るという意味は、仕事のていねいさや職人の仕事ぶり、仕事場の雰囲気を知るということです。仕事場には施工責任者の普段からの教育方針や、職人への態度が正直に反映されます。施工現場の整然とした印象、現場で働く職人たちの働きぶり、現場監督の指示の出し方、こうした施工現場の雰囲気は業者の姿勢をうかがい知る上で非常に参考になります。業者を決める前に必ず現場見学をしましょう。
材料の扱い方、近隣地域への気配り、見学者に対する態度など、気をつけて観察すれば仕事に対する姿勢が見えてきます。もしその仕事場を見て、仕事場風景が気に入ったとすれば、業者選びの一つのポイントとなります。できれば一カ所だけでなく現在工事中の数カ所の現場を紹介してもらい、案内人を連れずにお忍びで見学すると本当の姿がつかめると思います。業者のデザイン能力を判断するためには、竣工間近な物件を見学させてもらうのもいい方法ですが、この場合はその物件の施主の許可を得るようにしてください。また、施主から直接業者の評判など聞くのも有効な方法です。
6 「有名だから」で選ばない
業者選びでもっとも安易で主体性のない方法は、「有名だから」という理由で選んでしまうことです。「有名」には実態はなく、あえていえば宣伝広告に莫大な費用をかけた会社で、その分建設費は高いということを示しています。「誰でも知っている有名な会社」=「大手」ということですが、彼らは全国に下請け業者をネットワークし、施工を委託しています。企画、設計、資材供給、現場管理すべてが本社の意向で動き、契約後の変更要請や企画変更は容易ではありません。また、竣工後の管理は管理専門の別会社に移管され施工業者の手を離れる場合がほとんどです。
多くの人が安心だからという理由で有名なハウスメーカーに施工を頼んでいますが、安心を担保する方法なら他にもいろいろあります。また、デザインや施工の質についても、専門の建築士に頼んだ方がはるかに安くて質のいい家をつくれる可能性があります。つまり、「有名だから」という大手信仰を捨てることが、安くて良質の家を手に入れるコツです。私たちが「家づくり援護会」を設立し、一般の人たちの家づくり支援をはじめた理由の一つもここにあります。
7 見積もり競争で選ばない
業者選びでは最初から数社を選び競争入札で決める、いわゆる官庁の業者選択方式がありますが、この場合は前提として設計図、および仕様は確定していて、競争に参加する業者に共通の情報を与えて見積もり依頼できることが条件になります。しかし、詳細な図面や仕様が決定していない段階で「坪単価」を提出させて業者を決めるやり方は絶対に避けなくてはいけません。
多くの場合、業者を選ぶ段階ではおおよその面積と間取りが決まっている程度で、詳細図面や仕様の決定は業者を決めてから詰めていくのが普通です。業者によってはできあいのプランや仕様を持っていますが、これだと業者によって異なり、同じ条件での工事費を比較することができません。こう考えてくると、適正な形で見積もり競争を行い業者を決定するのはとても難しいことのように思えます。
見積もり競争で業者を選ぶのは、難しいばかりでなく危険をともなう場合があります。どうしても注文を欲しい業者が、無理を承知で他社が出せないような見積もりを提出し、そのしわ寄せが手抜き工事、騙し工事につながるという危険性があるからです。さらに、不利な条件でも仕事を欲しがるのは、経営的にも相当苦しい状況とも考えられ、工事途中で倒産ということも予想されますから、無理な値引き交渉は取り返しのつかない損失を招きかねません。
業者選びのポイントは信頼できる相手を選ぶことに尽きます。見積もり競争をさせて選ぶのではなく、専門家の助けを借りて適正な見積もりかどうかを判断するのが最善でしょう。
8 第三者契約への態度
次章で詳しく述べますが、昨今、ずさんな施工請負契約が原因でおこるトラブルが後を絶ちません。その意味でも、施工会社は、しっかりした契約書を作成するだけでなく、その内容について施主に誠意をもって説明しなければなりません。いたずらに契約を急がせたり、信頼を売り物に契約を軽視する会社は要注意です。
とくに中小の施工会社の場合、しっかりした請負契約書を用意しているところは少なく、ひどい場合は市販の簡単な契約書で間に合わせているところもあります。悪意ではなく契約に対する意識が低いことと、体制が整っていないことが原因となっている場合が多いようです。しかし、これではいざという時の備えにはならず、結果的に施主を困らせることになります。
私たちが推進している第三者契約のシステムは、このような中小施工業者の施工請負契約の不備を補い、需要者の権利を擁護するために行われる支援活動です。これはある意味で、業者選びのための一種の踏絵になるのではないかと考えています。現在は契約に対して意識が低い業者でも、第三者契約を積極的に取り入れ、施主の安心に配慮するような業者であれば良心的といえるでしょう。逆に、第三者契約を業者の権利を侵害するものとして排除する業者であれば、施主の利益より自分たちの利益を優先する業者といわれても仕方ありません。
9 保証、保険のチェック
家づくりの事前事後にはさまざまなトラブルが予想され、その事故から守るためのさまざまな保険システムがあります。しっかりした契約を交わし、施工会社が責任をもつからと太鼓判を押しても、いざ事故が起こると施工請負契約ではカバーできなかったり、損害が大きくて施工会社では責任を負いきれないといったことも十分考えられます。施工業者を決める場合、保険システムへの加入を確認することは重要なチェックポイントです。
近年、生産者責任を求める機運が高まり、建築引き渡し後10年間については瑕疵保証〔施工のミスで起こったキズや欠陥に対する保証〕をすることが義務付けられていますが、重大な欠陥に対する保証という点では、責任の負い方、負担の範囲をめぐって多くのトラブルが起こっています。さらに、施工業者が工事途中で倒産した場合の完成保証保険については、加入条件も厳しくほとんどの業者が未加入といった状況です。業者を選ぶ場合これらの保険への加入状況をチェックすると同時に、施工請負契約の中でも契約約款あるいは契約細則の中で保険加入を義務付ける条項を盛り込んでおくのがよいでしょう。
10 早い時期に専門家に相談する
施工業者には工法や施工スタイルに得手、不得手があるので、それを見極めることが重要です。そのため、業者選びの準備として、自分のイメージする家づくりに適した工法や設計のスタイルをあらかじめ決める必要があります。また、見積もりや契約内容のチェックをする上でも専門的な知識をもつ信頼できる相談相手がいると的確な判断ができます。こうした専門家を探す方法としては、身近な設計事務所などをあたるのが一番ですが、設計事務所といっても戸建て住宅専門の人は意外と少なく、また、設計業務を依頼しないと快く相談に乗ってくれないという人もいるので、相談を持ちかける際に、頼みたい仕事の内容と予算をあらかじめ決めて依頼するのがよいでしょう。
この他、業者選びについてはいろいろな不安もあると思います。「家づくり援護会」では、身近に相談相手のいない人のために、オンライン、電話、ファックス等を通じた無料相談を行っていますし、また、近くに会員のいる場合は出張相談にも応じています(196頁参照)。施工業者選びをはじめる前にご一報ください。
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