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 家を建てる前に読む本 家づくり援護会[編]          もくじ第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章

第4章 理想の家づくり C

第4章 理想の家づくり
「家」って何だろう
家と巣の違い
家族のあり方を決定する家づくり

よい家の条件を考える
本当の100年住宅とは?
問題を招く「LDK幻想」
家は家族の記憶装置

自己表現としての家づくり
うだつをあげる
家づくりはマイペースで
家づくりの主役交代

自分の家は自分でつくろう!
家づくりは創造的で、刺激的
間取りプランは自分で描こう
人生80年時代の家づくり
建築士との上手な付き合い方

ライフシートを作る
家族でアイデア会議
ライフプランニング(将来設計)
設計の手順と方法
自主設計を応援します

オンラインセミナーとの相違点
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自分の家は自分でつくろう!

家づくりは創造的で、刺激的

空間のイメージが一新すると気持ちばかりか生活のスタイルまで変化する、そんな体験は家の模様替えをしたときなどによく実感することです。空間が人間の精神や行動に影響を与えることはいろいろな形で証明されていますが、家の模様替えによって私たちが受ける心理的、行動的な変化もその一例です。部屋の広さ、形は変わらなくても、壁のテクスチャー、色、家具の配置、装飾品の変化などで空間のもつ意味は大きく変化します。

ごく普通の3LDKの家でも、各空間の演出の仕方、利用の仕方で家のイメージはまるで違ったものに変わります。最近、テレビで人気の内装改造番組では、インテリアの専門家がほんのちょっと手を加えるだけで、まるで手品師のように部屋を様変わりさせる様子を見せてくれます。狭くてどうしようもないと諦めていた家も、整理整頓の達人の手にかかると、たちまち快適で居心地のよい空間に生まれ変わることを実例として示してくれます。逆に、「片付けられない症候群」に陥った人の住む家は、外見は新築間もない広くて立派な家なのに、内側はまるでゴミ箱をひっくり返したような惨状を呈しています。

要するに、よい暮らしというのは、家の広さや豪華さによって決まるものではなく、家のつかい方や、暮らし方に対する住み手の創意工夫によって決まるものなのです。

それでは、居心地のよい空間とはどんな空間でしょう。味覚や聴覚が人それぞれ異なるように、居心地のよさも人によりイメージが異なります。インテリアデザイナーは、よく「テイスト」という言葉を用い、人それぞれの好みの違いを表現します。たとえば、わび、さびは千利休によって創案された独特の空間表現ですが、これは利休好みの「テイスト」といえるでしょう。利休に限らず、人それぞれに色、形、雰囲気に対する好みがあり、これが空間に対するその人の個性を形作ります。居心地のよい空間とは、自分好みの空間であり、家づくりの究極の目的もこの自分好みの空間をいかに創り上げるかにあります。

第四章で、なんの変哲もない旧い家が住まい手の個性が加わることによって見事に味わい深く、居心地のよい家に生まれ変わった話を紹介しました。これこそまさに家づくりの醍醐味です。竣工した瞬間から本当の家づくりが始まると考えれば、家づくりはすべての人に開かれた、とても創造的で刺激的な行為となるはずです。



間取りプランは自分で描こう

間取りの作成は、家づくりを行う過程で重要なポイントになります。
家族の数だけ暮らし方があり、その暮らし方にフィットする間取りが最適の間取りといえます。建売住宅を選ぶ場合も同じで、自分の暮らし方のスタイルを考えずに購入してしまうと、住み始めて一年にもなるのに数回しか使わない部屋があったり、今までの心地よかった生活リズムが崩れるはめになったりします。納得のいく設計をしようと思ったら、まず自分の暮らし方についてより具体的に整理することです。どんなに優秀な建築家に頼んだとしても、おまかせでよい間取りプランを作ってもらえると思ったら大間違いです。

専門の建築家に設計を依頼する場合、あるいは施工会社に設計をまかせる場合でも、まず、具体的な形で自分の要望を伝えなければなりません。そのとき、拙くてもいいですから自分で作った「間取りプラン」をもとに話し合うとよいでしょう。「間取りづくり」は、自分の暮らし方のイメージを図面に描き、建築上の約束事など気にせず、自由にアイデアを広げましょう。描いているうちにイメージが次々に湧き、アイデアが出てきます。納得のいくまでその作業を続けてみてください。自分が求めている部屋の形やこだわりを自分なりに描き、説明を加えればいいのです。ここで「間取りプラン」といっている作業は、住宅設計上では「企画設計」といいますが、企画設計は家をつくる上でもっとも重要な作業で、この作業がずさんだと納得のいく家はできません。そして、この企画設計を人まかせにせず自分自身で行うことこそが家づくりの鍵となります。

実際の設計作業では、さまざまな建築上の約束事を守る必要があります。しかし、イメージのしっかりした「間取りプラン」ができていれば、構造の問題、法規の問題、立面デザインなどは専門家がうまく調整してくれます。そのプランが素晴らしければ、それに触発された専門家がさらに優れたアイデアを付け加えてくれるはずです。

自由な間取りプランを建築上矛盾のない形に整理する作業を、基本設計といいます。基本設計の段階では、法規制との整合性、構造的な検証、無理のない工法の選択など、技術的な面で破綻を来さないように条件が整えられます。基本設計以降の作業は専門家の仕事ですが、それらの作業のもとになるのが企画設計で、ここでいう「間取りプラン」なのです。普通、専門の設計事務所でも企画設計はもっとも経験のある有能な設計者が受け持ちます。しかし、こと家づくりについては、このもっとも重要な作業を施主自ら受け持つのが理想です。なぜなら、自分の暮らしをデザインできるのは、自分自身をおいて他にないからです。


人生80年時代の家づくり

日本人の平均寿命が延び、「人生80年時代」といわれるようになって久しくなります。寿命が延びるだけならまことにめでたい話ですが、家族の形態も社会のシステムも急速に様変わりして、高齢者にとって手放しでは喜べない状況も生まれています。

つい最近まで、親がリタイアした後は子供が親の面倒を見、親は孫の面倒を見る、いわゆる三世代同居型のライフスタイルが一般的でした。しかし、現在では三世代家族はむしろ少数派で全体の三分の一にすぎません。とくに都会地では親子別居が圧倒的に多く、また、DINKS(ダブルインカム・ノーキッズ)と呼ばれる子供を作らない共稼ぎの夫婦も増え、老後を夫婦二人あるいは一人で暮らす人たちの割合が年々増えつづけています。介護の問題がクローズアップされる中、私たち日本人には過去に例のない新しい家庭生活を経験しつつあります。人生80年時代を視野に入れたとき、私たちはもっと自由に、もっとしなやかに家づくりを考えていいのではないでしょうか。

住宅の設計という側面から考えると、とくに子供部屋について柔軟な考え方をすることで家の使い勝手が飛躍的によくなります。アメリカで見たバンクス(Banks)と呼ばれる子供部屋のシステムは、子供がある程度大きくなるまでは子供全員を一つの部屋で共同生活させ、自立できるようになった段階で、個室に分割して与え、子供が独立した段階ではホビールームや、ライブラリーとしてリタイア後の生活を楽しむ部屋に改造できるように考えられていました。これは子供の社会性や自立性を高めると同時に、家族構成の変化や、暮らしのニーズに合わせて家の機能も変えていけるところに特徴があります。

最近、高齢者や身体障害者のための空間設計思想としてバリアフリー(一六〇頁参照)という考え方が普及してきましたが、これは子供や妊婦、あるいは病人にとっても共通する安全設計の思想であり、家づくりの最初の段階から組み込んでおくと人生80年への対応も容易になります。また、水道、電気、ガスなどのライフラインも将来の生活設計を見込んで新築時に設置しておけば、増改築にも柔軟に対応できます。たとえば、和室の地下部分に水道の給排水管口を設けておけば、将来、茶室に改造したり、介護のための洗面台に改造することも簡単にできます。

将来、二世帯住宅への増改築を希望する人にとっても、住宅の配置計画や、増築を前提にした設計プラン、ライフラインの設置などをしておくと低予算、短期間に増改築することができます。このように、人生80年の視点をもつことによって、後々の家に対する投資は軽微となり、また、家の使い勝手はとてもよくなります。設計面ばかりでなく、家そのものに対する考え方、家との付き合い方についても、固定するのでなく、選択肢を広げて自由に考えてみましょう。
 日本ではまだまだ一般的とはいえませんが、海外ではリタイア後に家を住み替える人たちによって、中古住宅市場も活況を呈しています。たとえば、環境がよく温暖な農漁村や、物価の安い海外に移住する人たち、また、完全看護つきのシニア向けホームに夫婦揃って入居する人、あるいは、友人同士が一軒の家を借りて共同生活をするといったユニークな生活を愉しんでいる人たちなど、人それぞれにイメージする幸福な老後の生活像に向けて思い切り自由に暮らしのデザインを愉しんでいいのではないかと思います。

どのような老後が幸福なのかは、人それぞれで結論は出せませんが、少なくとも高齢化社会を迎えるこれからの家づくりは、人生80年を視野に入れなければならないことだけは確かなようです。



建築士との上手な付き合い方
 

建築士に相談したり、設計を依頼する前に、もう一度、家づくりとは自分が求めている生活のイメージを具体化し実現することだと確認しておきましょう。無用な見栄を張ったり、自分のスタイルに合わない生活を求めたりしないこと、予算を決める場合も、家の広さや間取りを決める場合も、よその事例を見て決めるのではなく、自分の身の丈に合ったところで決めることが肝心です。自分にとって居心地のよい場所をつくるにはどうすればいいのか、専門家に相談する意味もそこにあります。

実際に建築士に相談するときには、建築の専門的なことを聞くのではなく、自分はどのような家に住みたいのか、どのような生活を夢見ているのかということを徹底して理解してもらえるように努力してください。話をするだけでなく、実際に今住んでいるところを見せて、何が不満で、何が満足かを詳しく話してください。一緒に食事するのもよいでしょう。趣味や家族の団欒、家族旅行に行った話など、家族のプライベートな事柄を遠慮せずに話せる相手を選ぶことが大切です。優秀な建築士は、そうした会話を通じて施主が理想とする生活のイメージを把握し、彼が持っている知識や経験を総動員して施主の夢を実現する努力をします。もし、施主の話を聞こうとせず、自分の主義主張を押し付ける建築士であれば、すぐに付き合いを解消した方がいいでしょう。

たとえば、話し合いの中で、こちらが提示したことを実現できないといわれることがあります。その場合は、ものわかりよくすぐに諦めるのではなく、なぜ実現できないのか、納得するまで話を聞きましょう。一番大事なことは、いい意味でわがままであることです。自分の夢、家族の夢を簡単にしぼませずに、それを実現するために徹底的にこだわる姿勢を見せないと建築士のやる気にも火がつきません。

次に、技術的な問題に対する対処法です。まず、問題のありかがどこにあるかをしっかりと吟味しましょう。建築家や施工会社の都合でものをいっていないか、純粋に技術上の問題だけなのか、建築家がどちらを向いて意見を言っているのかをしっかりと見定め、もし自分たちが求めているものと異なる方向を向いているようなら、早めの対処が必要です。



 

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