工程について理解する
構造・工法の予備知識
施工業者の広告チラシを見ると、さまざまな工法の名前があるのがわかります。どのような工法が自分の家づくりに適しているのかを知ることも大切です。
まず、構造とは、建物がどんな材料で構築されているかをいい、工法とはその構造の組み立て方をいいます。住宅の構造は一般に、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造に分類されます。そして、各々の構造に工法があります。以下、代表的な工法を紹介します(表8・9)。
◎木造
在来工法(軸組工法)
日本の伝統的な工法。柱(垂直)、土台・梁(水平)、筋交い(斜め)の軸で構成。多種類の
木材を現場で加工することが多い。近年は、伝統的な手法は少なく、金物による接合手法が多い。
2×4工法(枠組壁工法)
アメリカでもっとも一般的な工法。壁、床、天井を面で構成。2×4インチの角材を下地組とし、構造用合板(木質)を貼り付け、壁パネルとし、箱状に組み立てる。木材の種類は少なく、規格化されている。
オリジナル工法
近年多くなってきた工法で、施工会社が大学等と研究開発し、大臣認定を取得している場合がある。
基本的には前述した工法の一部改良型のもの、組み合わせたものが多い。たとえば、接合金物を改良したり、在来工法+2×4工法として「新在来工法」、「軸組パネル工法」と呼んでいる。
◎鉄骨造(S造)
主要な骨組みに鉄骨(鋼材、スチール)を用いた構造。一戸建て住宅には軽量形鋼(軽量鉄骨)が用いられる。
◎鉄筋コンクリート造(RC造)
主要な構造部に鉄筋で補強されたコンクリートを用いた構造。柱、梁などの構造部材の接合が一体化している。
◎プレハブ工法(木造・S造・RC造共通)
規格化された部材を工場で造り、現場では組み立てが主体となる工法。小形の鋼材で骨組みを造る鉄骨系、木質の版で造る木質系、鉄筋コンクリートの版を組み合わせるコンクリート系の三種がある
断熱材と断熱方法
いま、外断熱・内断熱の是非をめぐって議論されていますが、湿度の高い日本では、断熱のよしあしによって壁内に水分がたまり、カビなどが発生したり、ひいては建物そのものを傷めてしまうことにもなります。ごく基礎的な断熱材と断熱方法について説明します。
断熱材の分類として大別すると次の三つに分けられます。
繊維系
・グラスウール……安価で施工しやすいが、施工精度が悪いと結露・ずれ下がりなどが起こる。
・ロックウール……防火性・吸音性・耐久性がある。グラスウールと同様なことが起こるので注意が必要である。
発泡系
・ポリスチレンフォーム……断熱性が高い。燃焼時のガス発生やフロンの問題がある。
・硬質ウレタンフォーム……断熱性が高い。燃焼時のガス発生やフロンの問題がある。
・高発泡ポリエチレン……他の発泡系に比べ軟性であるので、施工精度に気をつけること。
自然素材系
・セルロースファイバー……パルプや古新聞紙などが原料。吹き付けの場合、欠損・沈下に注意が必要である。
・ウール……吸放湿性がよい。製品によっては防カビ材としてホウ酸を添加している。
・炭化コルク……吸放湿性がよく、腐りにくい。価格が高い。
また、断熱方法としては次の二つがあげられます。
イ)内断熱(図12)
・繊維系の材料を使えば安価でできる。
・高気密にするには気密シートを使用するので欠損など出ないよう注意する必要がある。
・筋交いなどの取り付け部に欠損が出やすいので注意する必要がある。
・施工精度にバラツキが出やすい。
・壁内などに水分がたまることもあるので十分注意する必要がある。
ロ)外断熱(図13)
・防湿・気密シートを気にせずに躯体の外側に断熱材を張るので施工精度にバラツキが出にくい。
・内断熱に比べ価格が上がる。
・発泡系材料は白蟻に注意すること。
・建物形状に凸凹が多いと施工手間がかかる。
・断熱材が外側なので内部空間が有効に使える。逆に外側に厚みが出るため狭小敷地には不向き。
どちらを採用するかは、その家をどのような性能・機能を持たせるかによっても変わります。どちらがよい悪いではなく、設計時に十分検討し、その家にあった方法を採用するようにしましょう。
地盤についての知識
近年、地盤が原因で起こる欠陥住宅のトラブルが増えています。
一因として、宅地の減少から、崖地や軟弱地の利用など無理な宅地造成が増えたことがあげられます。地盤が原因で起こる欠陥住宅の悲劇は決定的ですので、とくに注意が必要です。ビルなどの大規模工事では地盤調査は常識ですが、木造住宅については、つい最近まで、「軽いからベタ基礎にしておけば問題ない」と町の工務店に限らず、大手ハウスメーカーでさえ安易に考えられていたのが実情です。最近は地盤が問題で起こるトラブルも多発していて、各社で地盤調査を実施するようになってきました。
地盤の問題を考えるとき、ビルなどの大規模工事では「支持力」が問題となりますが、軽量な住宅の場合では「支持力」よりもむしろ「沈下」が問題となり、多くのトラブルは地盤の沈下によってもたらされています。
住宅の地盤調査については、現在一般的に行われているスウェーデン式サウンディング試験では不十分で、土の特性を把握するための経験工学の導入など、土壌の特性を掴むことが重要です。残念なことですが、最近急増している専門地盤調査会社の中には土壌の特性を無視した誤った判断から危険設計または過剰設計を行っているところもあり、需要者に余計な負担を掛けているところもありますので注意してください。
最新技術を駆使した豪邸といえども、地盤に問題があれば欠陥住宅になる可能性は否めません。家づくりの予備知識として、地盤について知ることはぜひとも必要です。不同沈下事故や不必要な補強工事を防ぐためにも、ここでは危険地盤の見分け方などを紹介しておきましょう
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不同沈下の恐怖
地盤が原因で起こる問題はいろいろありますがここでは一番大きい被害である不同沈下について説明します。これは読んで字のごとく建物が均一に沈下しないで一方向に対して、または部分的に沈下する事故です。不同沈下の最たる例として、ピサの斜塔が挙げられますが、一般の住宅の場合は観光名所になるどころか、悲劇のもととなります。
この不同沈下事故には、ある種のパターンがあるので、このパターンを理解していれば土地選びの段階で確認でき、その対策も容易に考えられます。
次頁に不同沈下事故例の主なパターンを示します(図14) 。
不同沈下のパターン
不同沈下を防止するためには、事前に建築地の地盤調査を行い、調査の結果と図14に示してある四つのパターンと照らし合わせてみましょう。ここで、正しい判断を行うために、土の基本的な性質を理解する必要があります。土は、「土粒子」「水」「空気」で構成されています(図15)。
そして空気と水を「間隙」と呼んでいます。土粒子に対して水と空気の占める割合が大きい土は軟弱土、専門的には間隙の大きい土といわれています。またその割合が小さくなるほどよく締まった土、すなわち硬い土ということになります。客土の場合は、ほとんどが空気であり、水田の土などは水の割合が大きくなります。土粒子の重量に対する水の量を含水比と呼び、土の物理的性質としてよく聞かれます。それを百分率で表し、宅地地盤でもっとも怖い腐植土などでは1000%をこえる場合もあります。
おおまかにいえば、客土など空気が多い土では、雨水の供給などによって小さな土粒子が下部方向に運ばれ、かみ合わせがなくなった大きい土粒子も下部へ運ばれ、そして表面的には沈下となります。
一方、粘性土など空隙が水で占められている土は、荷重によって水が排水され、その間隙の減少分が沈下となります。これが「圧密」といわれている現象です
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地盤調査の種類
現在では、敷地地盤の調査方法としてスウェーデン式サウンディング試験が多く採用されています。しかし一口に地盤調査といっても単に敷地地盤のみ実施するだけでは不足です。地盤調査は、図16のように三種類の調査を並行して行うことをおすすめします。
A、資料調査
まず建築地はどのような地形かを「土地条件図」や「地盤図」を使って調べます。これで比較的軟弱地盤の多い沖積層か、地盤が安定している洪積層かをほぼ推定できます。沖積層とは沖積世、つまり一万年前から現在までに堆積された地盤をいいます。洪積層とは、一万年前から100万年前までの洪積世に堆積された地盤をいいます。当然、歴史の浅い沖積層に軟弱地盤が多く存在しています。一万年、100万年といってもあまりピンと来ないでしょうから、ある本に書かれていたわかりやすい例を紹介します。
地球が誕生してから現在まで四六億年といわれています。この地球の歴史を距離に換算し、マラソンコースの42.195キロメートルとすると、一万年前から現在までの沖積世はわずか19センチほどの距離にすぎず、この地層がいかに新しいものかがわかるでしょう。そのため、まだ地盤がしっかり締まっていず、低い地盤面に主に水によって運ばれ堆積された水分の多い高含水比の土ができます。一方、洪積層は水だけではなく風によって運ばれた土もあり、住宅基礎地盤としては問題ない層といえます。図17はその土地条件図です。実際はカラー表示されていて、暖色は洪積層、寒色が沖積層となっています。ただし、沖積層すべてが問題ある地盤というわけではなく「自然堤防」「扇状地」など良好な地盤もありますので、注意してください。
以上のように、建築地がどのような地形に属しているのかを確認することが資料調査で、ヘリコプターで建築地を俯瞰したような「マクロ調査」に当たります。
B、現地踏査
現地踏査とは、近隣の建物に大きい変調が見られるか、道路が凸凹になっているか、側溝などに大きい変調が見られるか、など近隣の状況を確認することです。もし、なんらかの変調が見られるときには、計画している住宅も同様な結果になる可能性があります。一般的にはチェックシートで確認しますが、基礎コンクリートの乾燥収縮などでもひび割れが発生しますからその見極めが重要です。資料調査がヘリコプターでの高度からの調査とするなら、現地踏査は電柱に登って建築地を眺める調査といったところです。
C、現地試験
具体的にどの程度の地盤なのかを具体的に探るのが現地試験です。この試験は「マクロ調査」に対して「ミクロ調査」と呼ばれています。一般的にはスウェーデン式サウンディング試験を三カ所から五カ所で実施し、建築地の地盤を立体的に調査した上で地層推定断面図などを作成して検討します。この試験は地盤の深度方向における貫入抵抗を調べる種類で、大規模工事でも採用されているボーリング調査(標準貫入量試験)の「N値」の換算値がわかります。また、この試験データーからは「支持力」が求められます。支持力とは、荷重によって地盤がせん断破壊する目安を示す値ですが、荷重に関係なく沈下する客土の場合、仮に支持力が算出されたとしても、建物を支える力がゼロということもありえます。木造住宅は軽量なため、不同沈下は支持力よりもむしろ、沈下しやすい土壌かどうかの見極めが大事になります。
ここで注意したいのは、どんなにフカフカの客土や盛土でも、スウェーデン式サウンディング試験では換算N値=ゼロにはならないことです。多少なりともN値があれば支持力が得られるので、その数値を過信して基礎設計をし、思わぬ事故に発展しているケースが見られます。
一つの事例として、実際の試験結果を参考に、客土を有する宅地と洪積台地の宅地の比較結果を見ながら分析してみましょう。
図18および図19は、スウェーデン式サウンディング試験結果から地層推定断面図を作成したものです。
客土を有する宅地
イ)地形分類は洪積台地で、地山〔切土、盛土をしていない、もともとあった土地〕であれば沈下しない。
ロ)前面の道路とマイナス4〜マイナス15メートルの高低差があり、RC擁壁〔鉄筋コンクリートで造られた擁壁〕で土留めされているため、必然的に客土となっている。
ハ)現地踏査としての近隣状況は、宅地造成地であり、該当建物がなく踏査不可。また道路や側溝関係は問題ない。
ニ)スウェーデン式サウンディング試験の結果、切土部〔土を切り取った場所〕は、地表面以下、まったく問題ないデータとなっている。
ホ)客土部はロッドの自沈層〔地盤調査に用いるおもりが自重で沈む軟弱地盤〕が続き、RC擁壁の底版に当たり、貫入不可となっている。その境は、計画建物の中央部付近である。
これらの結果から布基礎〔土台の下に線状にめぐらす基礎〕やベタ基礎〔建物の下一面にコンクリートを打つ基礎〕ではかなりの確率で不同沈下すると判断できます。造成図面を手に入れ、RC擁壁の底版幅〔擁壁を支える基底部の幅〕など確認すべきです。この事例は前出の不同沈下パターンのケース1に該当するものです
洪積台地の宅地
イ)地形分類は洪積台地で、地山であれば沈下しない。
現地踏査としての近隣状況は、基礎にひびわれなどが確認されているが、大きい変調はない。
ロ)スウェーデン式サウンディング試験の結果、地表面は旧盛土〔以前に土を盛ったと思われる場所〕と
思われるが、浅層からローム層が確認されている。しかし断続的ではあるが、自沈層が続いて
いて、その層はGLマイナス八メートルまでに達する。
ハ)硬質層としては、四ポイントともGLマイナス八・二メートル付近で砂礫層が確認されており、
均一な地盤構成となっている。
これらのことから布基礎やベタ基礎などで十分安全が確保できると考えられます。しかし地表面付近は人工的に攪乱された状態であり、間隙の大きい圧縮性に富む性質なので、砕石地業などを厚くし、ランマー〔地面を締め固める機械〕による入念な転圧が必要となります。
以上のように同じ自沈層でもまったく異なった仕様となります。この事例からも単純にスウェーデン式サウンディング試験結果だけで判断すると、過剰設計または危険設計になる可能性があります。マクロ調査からミクロ調査、すなわち資料調査、現地踏査および現地試験の結果に基づいて基礎の仕様を決定すべきです。
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