施工現場での接し方
建築基準法を確認し、地盤を調査し、家の寿命やシックハウスにも留意して、いよいよ着工ということになるわけですが、先にも述べたように、ここからは実に多くの職人さんたちが参加してきます。家づくりの予備知識としてもう一つ欠かせないのが、現場での職人さんたちとの接し方です。
施工現場での基本マナー
ある調査によれば施主が現場を訪れる回数は、平均三〇回だそうです。仮に一二〇日で家が完成するとすれば四日に一回の割で見ていることになります。ただし、問題は何回行くかの回数でなく、現場で何を見てくるかということです。どんな現場でも小さなミス、うっかりミスは付きものだと書きましたが、この小さなミスを小さいうちに見つけて直すことが重要です。経験のある技術者が気づかなくても、他の目で見ると気づくミスも結構あります。気になったらどんなことでも遠慮せずにすぐに確認し、納得したうえで進めてもらうのがよいでしょう。
職人さんには聞きにくいということなら、現場の監理者や検査機関に聞いてみるのもいいと思います。そうやって気軽に相談できる相手を見つけておくことも必要です。
施主自ら現場を見るというのは、職人さんとのコミュニケーションをはかる上でも大事ですが、自分が家づくりの主役であるという認識をもつ上でも必要なことです。それでは現場への接し方について気がついたことをまとめてみましょう。
まず、施工現場に対する基本的な認識として、建築中の建物をはじめ、工事現場に置かれているものの所有権は請負会社側にあるということを忘れないでください。自分のお金を払って工事をさせているのだから、すべて自分のものだと思いたいところですが、施工現場での事故も含め一切合財の責任は施工会社が負うことになっています。建築中の建物を竣工引き渡しするまでは、たとえ施主といえども、建物や資材に対して所有権を主張することはできません。この考え方は、物に対してだけではなく工事の進行や工事現場の安全についても同じです。施工現場の全責任は施工業者が負っているので、いくら施主でも現場に立ち入り自由に振る舞うことはできないというのが基本のマナーです。
とはいっても、施主としては現場が気になり、進行状況や自分の家が建ち上がっていく様子を見たいという誘惑を押しとどめることはできません。そこで、現場での仕事を邪魔せず、職人さんにも気持ちよく仕事をしてもらえるコツをお教えします。
まず、現場に出かけるファッションですが、活動的で汚れても気にならないような服装が最適です。施工中の現場にはさまざまな資材や道具が置かれているので、裾の広いスカートやかかとの高い靴、つまずきやすいサンダルなどは避けた方がよいでしょう。足ごしらえという点では建物が建ち上がってからの(上棟後)現場での必需品がスリッパです。いくら床に養生〔建物を傷めないように保護すること〕がしてあっても、靴底の砂で床に傷がつく危険もあります。職人さんにとっても仕事場に土足で上がられるのは気分のいいものではありません。また、現場での危険を防ぐという意味では、ヘルメットなどを借りて現場に入る心がけも必要です。
現場に行ったら、まず建物内に入る前に職人さんに声を掛けてください。現場は危険がいっぱいです。見た目では床があるように思えても単に板を置いてあるだけだったり、高い所で作業をしていれば、ものが落下して来たりする恐れがあります。塗装や接着剤が乾いていない所に入ってしまうとやり直しになります。必ず「入ってもいいですか」と声をかけて確認をしましょう。
職人さんとの接し方
職人さんとの接し方ですが、普通、彼らはいくつかの現場を掛け持ち、時間をやりくりしながら仕事をしています。彼らがもっとも嫌うのは仕事を邪魔されることですが、自分たちの仕事ぶりを見られることには悪い気持ちはしないはずです。意味もなく話しかけたり、作業の邪魔になるような場所に立ったりしなければ、問題ないでしょう。休憩タイムは職人さんと接する絶好のチャンスです。彼らはお昼以外の10時と3時に休憩を取るのが普通です。休憩時にお茶の差し入れをするのであれば、そのちょっと前に現場に行って「休憩にどうぞ」と渡し、長話にならない程度に会話を楽しむのもよいでしょう。お茶菓子について気にする人もいますが、差し入れをしないからといって仕事を手加減する職人さんはいませんので、無理をする必要はありません。気は心の世界ですから、できる範囲で差し入れすればいいのです。
工事を変更する場合の対処法
次に工事中に変更をしたくなった場合の上手な対処法についてまとめてみます。原則的には着工後のプラン変更は、予算の変更やスケジュールの遅れに直結しますから、できれば避けたいところです。しかし、どんなに綿密に事前の相談をしても実際に建ち始めるともっとよくしたいと欲が出てくるのも人情です。厳密にいえば、工事中の変更は請負契約の変更を意味しています。したがって、後日に問題を残さないよう工事変更を行う場合、次のような配慮が必要です。
1)変更によるリスクを最小限にするために、できるだけ早く変更を申し出る。
2)変更についての内容、予算は変更届などの文章で記録を残し、工事責任者のサインをもらう。
3)軽微の変更で追加工事費が発生しないものであっても、変更届は作成し保管する。
一口に変更といっても契約にかかわるものから、契約の範囲で対処できるものまでさまざまです。たとえば、壁クロスや床材、外壁材など資材の変更の場合、その部分の工事を始める前、あるいは、施工業者が資材を建材メーカーに発注する前なら、契約の範囲内で十分に対応可能です。しかし、すでに資材の返品ができない段階になっていたり、資材のグレードアップによる変更の場合は、契約金額の変更となり、追加料金を請求されても仕方ありません。
たとえば、ユニットバスなどの設備機器の色が気に入らないといってサイズやグレードが同じ範囲の中から別の色に変更する場合でも、すでにメーカーに発注済みの場合は再購入ということで別予算がかかる場合があります。変更はできるだけ早く申し出るのが鉄則ですが、その場合には、資材の発注状況を確認しておきましょう。
資材の変更だけなら大きな問題にはなりませんが、工事に取り掛かった後の変更は注意を要します。資材の再発注にとどまらず、別途工事費の発生や工期の遅延にかかわってくるからです。また職人さんも一度きれいにこしらえた物を壊すことに気分を害し、工事全体に影響を及ぼすことにもなりかねません。さらに、建物の配置替え、間取りの変更、床面積の増減、窓など開口部の変更、などは建築確認申請の変更届が必要な場合も出てきます。この場合、変更申請料はもちろん必要ですが、追加工事費も相当に多額になることが予想されるので、こうした事態を招かないためにも、設計段階での十分な検討はもちろんですが、何よりも早め早めの対応がリスクを最小限にとどめる秘訣です。
やむにやまれず、予算に関係なく変更したい場合もあります。この場合は、工事変更にともなう見積もりの提出とそれに要する工期について、工事責任者あるいは施工会社の責任者との間でしっかり確認し、変更届を交わしたうえで着手するようにしましょう。変更にかこつけて余分な工事をする場合もありますから、注意を要します。どんなに現場の人たちを信頼していても、くれぐれも口約束で変更依頼することは避けてください。後日トラブルに発展するもとになります。
工事変更はだれに頼めばいいのか
工事の変更を現場の職人さんに頼んだら、簡単に引き受けてくれたものの後でビックリするほどの金額を請求されて驚いた、というケースはしばしばあります。多くの場合、現場で働いている職人さんは仕事単位の契約で施工業者から頼まれていて、工事全体に責任を負っているケースはほとんどありません。したがって施主から変更があれば、工事費や契約の内容を気にせず快く引き受けてくれますが、だからといって無料奉仕ではないので注意が必要です。
通常、工事の変更を頼む場合、担当営業マンか現場監督に申し出るのがよいでしょう。時として現場監督や担当営業マンが会社の人間ではなく、嘱託や契約社員だったりすることもありますが、基本的には施工会社から委託を受け、現場の管理あるいは施主とのコミュニケーションについて責任を与えられているので、変更を申し出る最初の窓口としてはよいのではないかと思います。しかし、変更によって工事費が変更するような場合、あるいは仕様、工期など変更の内容が契約の見直しにかかわるような場合は、現場監督や担当営業マンの了解だけでは安心できないこともあります。一応、彼らに変更の希望を伝えても、変更にともなう費用あるいは工期については会社の責任ある立場の人の了解を得る必要があります。変更にともなう「変更届」あるいは「工事変更届出書」などの書類には必ず会社の責任者のサインをもらうようにして、担当営業マンや現場監督が快く引き受けてくれたからといって、くれぐれも口約束だけで工事を進行してしまうことは避けてください。
施工業者が「工事変更届出書」を所持していない場合は、私たちに連絡してください。所定の書式を手に入れることができます 。
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