家づくりと健康
シックハウス症候群
近年一番問題になり、一時マスコミなどにもずいぶん取り上げられたので、シックハウス症候群(化学物質過敏症)という言葉はご存じだと思います。これは、住宅建築に使われるさまざまな建材、機器から発生する有毒な化学物質が原因となって発症する病気です。これに罹ると、頭痛、めまい、嘔吐、発疹などの症状が現れます。場合によっては、タバコの煙や臭いでも発症する人もいます。最近はあまり取り上げられなくなりましたが、シックハウス症候群で苦しむ人の数は確実に増加しています。
たとえば、つい最近私たちのところへこんな深刻な相談が持ち込まれました。「現在、家の新築を考え施工会社の工事中の現場を見に行くと、どこに行っても頭痛、吐き気など具合が悪くなります。家族全員が同じ症状になるため、すぐに現場から離れるしかありません。何が原因かはわかりませんが、このままでは家づくりを進めるのが不安です。安心に暮らせる家を建てるにはどうすればいいのでしょうか」(北海道・主婦)。
住宅の問題といえば、「欠陥住宅」や「契約の問題」がすぐに思い浮かびますが、住んでいる人の健康に直接かかわってくる、このシックハウス症候群はきわめて重大な問題です。しかも、子供などの弱者が一番の影響を受けるとなると、この問題を放置することはできません。
施工会社の大半は「シックハウス対策」を掲げていますが、これですべてなくなるわけではありません。国が示している基準??といっても非常にあいまいですが??にしても、揮発量がゼロではないからです。会社によっては「自然素材」とか「無垢材使用」など、さまざまなうたい文句があるようですが、字面だけで実質がともなわない場合もありますから気をつけてください。
この化学物質は主に構造用合板等に使われる接着剤に含まれるホルムアルデヒドをはじめ、トルエン、キシレン、バラジクロロベンゼン等です。それぞれの化学物質によって室内濃度指針値が決められていますが、許容範囲としての数値ですから、その数値以下だからといって身体にいいわけがありません。
また、建築材料に気をつけたとしても、それだけでは安心できません。たとえば、キッチン、下駄箱などの箱物、その他、使っている家具などに使われている合板から有毒物質が発生することもあります。つまり、新築の段階で測定調査を行い、そのときには問題がなかった家でも、実際に家具などを運び入れてみなければ正確な数値は測れないということです。
建材メーカーでもノンホルムや低ホルムといわれるものを開発しているので、極力そういうものを選んで使うことをおすすめします。表示としてはFc0、E0となっているものがホルムアルデヒドを抑えている商品です。覚えておいてください。
バリアフリー
家づくりを行う上で考えておかなければならないものに、「バリアフリー」というものがあります。これは、家の中のバリア(障壁)フリー(取り除く)を設計プランの段階から取り入れ、永く住める住宅であること、人に優しい家であることを念頭においた考え方です。
このバリアフリーの考え方は、当初、高齢者や障害者のためのものでしたが、その後、高齢者、障害者に優しいものは万人に優しいという考え方になり、呼び名も「ユニバーサルデザイン」へと変わってきました。
基本的な考え方は、家の内部の段差解消、廊下幅の拡大、浴室の段差解消と手すりの取り付け、入口幅の拡大、階段幅の拡大と手すりの取り付け、各部屋の入口幅の拡大などです。車椅子での通行や、伝え歩きに対応できるようにすることを目的にしています。といっても、いったんできあがった家の廊下の幅を後から広げようと思っても容易なことではありません。この方式を導入するには、最初の設計段階から取り入れなければならないことがわかると思います。
残念ながら、現状では金融公庫の割増融資を受けることを目的に、最低限の物だけを取り入れたり、本当は老人の同居がなくても、さも同居するように申請したりする人がいるようです。本来の意味を履き違えないようにして欲しいものです。
また、国の基準についても少し考えなければなりません。一つには、その建物自体の立地条件、道路付けや高低差によっては、バリアフリーが成り立たない場合があるはずなのに、そういう面での審査基準がないことです。つまり、いくら家の中をバリアフリーにしていても、一歩外へ出るとバリアだらけの状態では、バリアフリーの住宅とはいえません。
施工会社によっても、バリアフリーについて理解し、提案してくれる会社と、形だけの会社がありますから、自分の要望を伝えた上で、きちんと答えてくれるところを選びましょう。
施工現場との接し方
建築基準法を確認し、地盤を調査し、家の寿命やシックハウスにも留意して、いよいよ着工ということになるわけですが、先にも述べたように、ここからは実に多くの職人さんたちが参加してきます。家づくりの予備知識としてもう一つ欠かせないのが、現場での職人さんたちとの接し方です。
施工現場での基本マナー
ある調査によれば施主が現場を訪れる回数は、平均三〇回だそうです。仮に一二〇日で家が完成するとすれば四日に一回の割で見ていることになります。ただし、問題は何回行くかの回数でなく、現場で何を見てくるかということです。どんな現場でも小さなミス、うっかりミスは付きものだと書きましたが、この小さなミスを小さいうちに見つけて直すことが重要です。経験のある技術者が気づかなくても、他の目で見ると気づくミスも結構あります。気になったらどんなことでも遠慮せずにすぐに確認し、納得したうえで進めてもらうのがよいでしょう。
職人さんには聞きにくいということなら、現場の監理者や検査機関に聞いてみるのもいいと思います。そうやって気軽に相談できる相手を見つけておくことも必要です。
施主自ら現場を見るというのは、職人さんとのコミュニケーションをはかる上でも大事ですが、自分が家づくりの主役であるという認識をもつ上でも必要なことです。それでは現場への接し方について気がついたことをまとめてみましょう。
まず、施工現場に対する基本的な認識として、建築中の建物をはじめ、工事現場に置かれているものの所有権は請負会社側にあるということを忘れないでください。自分のお金を払って工事をさせているのだから、すべて自分のものだと思いたいところですが、施工現場での事故も含め一切合財の責任は施工会社が負うことになっています。建築中の建物を竣工引き渡しするまでは、たとえ施主といえども、建物や資材に対して所有権を主張することはできません。この考え方は、物に対してだけではなく工事の進行や工事現場の安全についても同じです。施工現場の全責任は施工業者が負っているので、いくら施主でも現場に立ち入り自由に振る舞うことはできないというのが基本のマナーです。
とはいっても、施主としては現場が気になり、進行状況や自分の家が建ち上がっていく様子を見たいという誘惑を押しとどめることはできません。そこで、現場での仕事を邪魔せず、職人さんにも気持ちよく仕事をしてもらえるコツをお教えします。
まず、現場に出かけるファッションですが、活動的で汚れても気にならないような服装が最適です。施工中の現場にはさまざまな資材や道具が置かれているので、裾の広いスカートやかかとの高い靴、つまずきやすいサンダルなどは避けた方がよいでしょう。足ごしらえという点では建物が建ち上がってからの(上棟後)現場での必需品がスリッパです。いくら床に養生〔建物を傷めないように保護すること〕がしてあっても、靴底の砂で床に傷がつく危険もあります。職人さんにとっても仕事場に土足で上がられるのは気分のいいものではありません。また、現場での危険を防ぐという意味では、ヘルメットなどを借りて現場に入る心がけも必要です。
現場に行ったら、まず建物内に入る前に職人さんに声を掛けてください。現場は危険がいっぱいです。見た目では床があるように思えても単に板を置いてあるだけだったり、高い所で作業をしていれば、ものが落下して来たりする恐れがあります。塗装や接着剤が乾いていない所に入ってしまうとやり直しになります。必ず「入ってもいいですか」と声をかけて確認をしましょう。
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