(1)地形
里山の小さな家は、旧い自作農だった生家の地に2003年の秋完成しました。地名は岐阜県美濃加茂市山之上町。名のとおり一帯は標高200m前後の丘陵地で、敷地はゆるやかな南だれの浅い谷間(この地方ではホラ(洞)という)を登りつめたいちばん奥にあります。冬は北風からまぬがれ、夏は南の風が吹き抜けます。
岐阜県の地形は北に山岳地帯、南に平野と水郷。この地理的概念を「飛山濃水」と総称します。飛騨は北アルプスに象徴される深い山々と渓流。美濃は木曾三川に象徴される豊かな水と沃野。美濃加茂市はこの中間の里山地域に位置し南端は木曽川。
敷地から3分ほど歩いて「峠」へ登ると、東西南北すべて重畳とした美濃の低い山々。そのはるか東に恵那山、西に伊吹山、北に白山を望みます。
一帯は高さ50mに満たない低い丘がぽこぽこと重なり、ふもとに家々が点在します。谷間を開いて水田が川の流れのようにつらなる典型的な里山地域。
(2) 配置と間取り
敷地は東西27m、南北18m。東西に長い150坪弱の土地です。
ここに東向きの母屋と南向きの座敷があり母親が暮らしています。
母屋を撤去し、座敷と一体化して新しく建設したのがこのリポートで報告する「里山の小さな家」です。
新築した里山の小さな家は間口7.25間、奥行き5間。南向きの間取りで1階30坪、2階10坪。1階は24畳の居間、10畳の和室、10畳の寝室、玄関、キッチン、トイレ、洗面、浴室等の水廻り。2階は20畳のロフト。構造は木造軸組み+耐力面材。
既存の座敷は築13年。間口5間、奥行き3間、1階15坪、2階10坪。8畳2間に1間幅の縁側、押入れと床の間、仏間、トイレがあります。2階は物置としてつかうロフト。構造は伝統的な木造軸組みです。
既存の座敷と東西に並べて1体化したので間口全長は12.25間(約22.3m)、延床面積65坪になりました。田舎では中規模の配置です。
(3)こもる−ひらく
里山の小さな家のコンセプトは、旧い美濃の民家に濃密に共存していた「こもる」「ひらく」。相反する雰囲気の再生でした。
暗かった家のなか、小屋裏の妻に切られた洞窟の出口のような煙出しのこもり感をロフトに再現し、南の1階居間は精一杯の光をとりこみ、開放感に満ちたものにしました。
間口が長く奥行きが浅いので、各部屋の採光条件はこの上ないものになりました。
内外装は、経年変化が味わいを深めていく無垢の自然素材で造りました。
広い居間の剛性を確保するために設けた、2本の太い空中太鼓梁が、里山の小さな家の無垢な味わいと頑丈な構造を象徴して、意匠の中心を担っています。
日暮れて夜になり、カーテンに替えて設けた障子を閉じれば、白熱灯の暖かい光が障子と白い塗り壁に映え、深い安堵を醸します。
ラオス松の床を素足で歩いてごらん! 無垢板の感触の心地よさといったら。
(4)室内環境
真夏のある日,外気温38℃、屋根瓦の上61℃、室温28℃!
家中をさわさわと心地よい風が流れます。エアコンはありません。機械設備を一切使用しないで、断熱、地熱、通気、遮光など、建築的な工夫を総動員した結果、夏は爽やかで涼しく、冬は家中どこもぬくぬく。
光熱費は暖房費,給湯費を含め,1ケ月平均8,500円です。オール電化なのでガス代,灯油代はゼロ。詳しくは後述しますがこの電気代でお湯もたっぷり使え、ハイレベルの省エネ性能です。環境負荷も最少化することができました。
内装は火山灰原料のシラス壁、天井と腰板にスギ無垢板、床はラオス松。室内を取り囲むこれらの機能はすぐれた消臭調湿性。おかげで室内は木の匂いだけ。あのVOCの厭な刺激臭は全くありません。真冬の浴室窓やその他の北側の窓でも結露ゼロ。
シックハウス症候群が医学的にも深刻な事態と認識され、1003年7月1日付で改正建築基準法が施行されました。
しかし法律は主に化学的汚染物質の許容レベルを示しているので完全に安全ということではありません。濃度の問題をクリアするのでなく、建築主はVOCゼロを目指したほうが安心です。これは法外なお金がかかることでも、技術的困難をともなうことでもなく、内装材を設計時点で特定すれば容易に実現できます。
目次 次の文章を読む
※実際の書籍の内容とは異なる場合があります。
|