愛和の設計図が出来上がったのはそれから1ヶ月後の3月中旬でした。構造図、展開図、建具図もきっちり描かれています。
設計意図が崩されているところが1ヶ所。ロフトの登り梁が和小屋に変更されていました。これではロフトの中に柱と梁がいっぱい出てきて部屋の用を足さない。登り梁の復活を申し入れ、こまかいチェックをいれて手直しを依頼しました。
結局300万円の値引きはムリ。断熱方式の設計変更を含め、200万円の値引きになりました。
価格交渉はこの1回だけです。価格だけを巡って交渉が長引くと工務店にも厭気が生まれます。家造りでは避けるべき。
3月30日契約調印、4月4日地鎮祭、4月21日既存住宅の解体。その間わたしは東京から金帰月来で既存住宅にあった家財の移動や廃却に忙殺されました。生活というのはロクでもないものを貯めこむ行為でもあります。使いもしないものを遺すのは次世代への迷惑。父が残した数々の品をはじめ、多少未練が残るものも思い切って処分しました。(このプロセスで母親とイロイロもめましたけどネ)
急ピッチでスケジュールが進み、気がつけばもう若葉がそよぐ季節。
話は前後しますが、着工前に愛和は職方をすべて集め、職方リストを作成して顔合わせ会を開催してくれました。基礎、瓦、左官、電気、水道、建具、設備など、愛和組ともいうべき関係で長年チームを組んでいる近在の小さな会社や個人の職人さんたちです。愛和は着工前に職方を集めてその住宅の概要や段取りを打合せ、職方同士の連携によってムダの排除と品質の向上を目指しているようです。その席で、わたしは簡単な挨拶をさせてもらいました。
遣方、地業、捨てコン、配筋、基礎型枠など、面白くないが大事な仕事がキッチリキッチリと進みます。
東京から2週間ごとに帰宅して初めのうち施工チェックをしましたが、愛和の仕事ぶりと精密な工事、こまめに現場を見てくれる監督の板頭さん(社長の弟さん、以下監督と略)に途中からすっかり安心して任せてしまいました。
たとえば基礎の誤差は最大4ミリで施工されていました。こんなチェックまで建築主がやるの? やらなくてもいいけどわたしはやりました。
土台を伏せるとほとんどぴったり納まってその精度が鮮明に分かりました。契約前に多くの現場を見て歩いたのですが、ひどいのは+−で5センチ以上の誤差もありました。これ、最大10センチということです。4ミリという精度は一般住宅の基礎としては完璧といってよいでしょう。
また、基礎通気口は普通凹形にあけるのですが、指定したわけでもないのに□形にあけ、開口部の上側にも配筋を施して4周を鉄筋で閉じ、しっかりとコンクリートが打たれていました。これは基礎の強度を万全にします。
さて上棟は5月23日と決まりましたが仕事の関係もあり、式典は省略。1週間後に東京から駆けつけると4隅に盛り塩とお米とお神酒の跡。愛和の人たちだけで式典をやってくれたのです。思わず熱いものがこみあげてきました。
軸組みを見ると、なんとコーナーの壁にすべてスジカイが取りつけられていました。もちろん柱の引抜き対策用アンカーボルトもしっかり施工されており、スジカイが悪さをする心配はないのですが、それにしても要らないといったものを何故?
監督に訊くと
「いやー、やっぱり心配で。社長は無しでよいと言ったのですがわたしが付けました」
スジカイよりも耐力面材のほうが3倍ほど強いので、スジカイはなくても問題ないのですが、有ればそれだけ強くなります。
次に耐力面材ダイライトの施工です。これを外壁のすべてと室内の耐力壁に専用の釘で柱、梁、土台に15センチピッチで打ちます。
ダイライトはセラミックの一種で、構造用合板にくらべて多少割高になりますが、強度、化学物質、防火、防腐、防蟻などメリットの多い製品です。唯一弱点は非常に硬質でもろい点です。特に釘の深打ちは厳禁。頭がめりこむほど強く打つとその部分の組織が破壊され強度は台無しになります。(構造用合板でも同じ)
「監督さん、釘は強く打たないようにくれぐれも注意してください」
「心得ています。はじめは機械で弱めに打ち、仕上げは金鎚でやります」
さらにロフトの床下地に12ミリ厚の構造用合板を貼ったので,平屋で2階建ての床剛性になりました。壁量計算に入れていなかった小壁を加えると,設計時点よりも2倍近い耐震性能が確保できたと思います。
こうして手間を惜しまず丁寧にダイライトが貼られ、構造が完成しました。そしてダイライトに内側から現場発泡断熱材アイシネンの吹き付け。設計は厚さ7.5センチですが実際は柱の太さいっぱいまで吹き付けられ、平均10センチにもなりました。5センチのグラスウールにくらべると5倍くらいの断熱性能になります。
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