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「里山の小さな家」ある建築主からのレポート 報告者/井戸道也

5.自分で設計する                         写真   図面 

1. 概要
(1) 地形
(2) 配置と間取り 
(3) こもる−ひらく 
(4) 室内環境

2. 気候

3.美濃の民家−起源と形成
(1) 配置と間取り 
(2) 構造 
(3)家の形成と暮らし

4.失われた民家
(1)生活の変化 
(2)悪くなった住宅

5.自分で設計する
(1)思い通りの家? 
(2)暮らしかたを構想する

6.要件を固める
(1)断熱が生命線 
(2)小さく 
(3)低く 
(4)陽を入れる、さえぎる 
(5)素材とデザイン 
(6)東海地震に備える

7.愛和登場
(1)相見積り 
(2)板頭社長 
(3)カネダイ 
(4)2つの実験

8.契約・着工・上棟

9.白川大工・今井さん

10.仕上げ

11.完成・見学会

12.冬
(1)背中があたたかい 
(2)結露ゼロ!

13.春〜夏
(1)春 
(2)夏

14.1年経過
(1)床材ラオス松 
(2)樋から雨漏り! 
(3)電気料金 
(4)ショック! 畳に青カビ

15.そのほか
(1)新築費用 
(2)優良工務店を探す 
(3)家相

16.終わりに


(1)思い通りの家?

 ウソ!? 専門家でもないのに家の設計なんかできるわけがないと思うのは早計で,最近メッチャオモロイ建築史学の東大教授、図面を描いたことの無いあの藤森照信でさえ、こともあろうに美術館まで設計しちゃったのです。
 そうは言っても思い通りの家を素人が具体的に描こうとすると、住むことの概念創りをはじめ、基礎的な知識、ある程度の技術と技能などが必要になります。
 通常、モデルハウスや住宅雑誌で見た漠然としたイメージをとりとめもなく話す、切抜きファイルを見せる、方眼紙に間取りを描くくらいがまあ普通でしょう。実際は何ひとつ具体化できていません。建て主がいうところの思い通りの家は、文科系からのアプローチにも理科系からのアプローチにも属さず、この段階ではまだ混沌、まさに夢です。
 夢を具体化する手段は仕様書と図面をつくることでこれを設計といいます。この世界が専門化して資格要件が法制化され、西洋の翻訳建築用語や数式が入ってきたので、住宅の設計が技術のみに属するかのごとき共同の錯覚が生れ、定着しました。

 建築用語をみると昔からの大工用語がたくさん入りこんでいます。このことは、西洋の建築技術が入ってくるまでもなく、わが国の木造技術がすでに独自な完成度に達していて、翻訳用語では表現も造作もできない世界を形成していたともいえます。そして大工用語は、ひと昔前まで村の人々にも共有されていました。家は百姓大工と村人で建てるものだったのです。

 で、現代社会では設計は建築士、工務店、ハウスメーカーなど、プロに委ねることになります。彼らは客の夢を現実化する職能といえますが、建て主が語るひとつの夢に対して千差万別の案が出てくるのも現実。
 乱暴にいえば専門家は自社流を出してくるだけ。ここで夢は半分以上削られることになるのですが、それでもたいていの場合、夢よりはるかにマシな案になっているのも事実。プロにはセオリーがあり、失敗の経験があり、建て主には幻想があるからです。

 実は100u以下の木造住宅は無資格で設計ができます。これは建築基準法で決められた便宜上の制約ですが、このことからも住宅の設計は実はそんなに難しいことではないと分かるでしょう。自分が住む家は自分で設計したほうがよいと思います。

 通常、工務店やハウスメーカーの設計図はかなりラフです。配置図、平面図、立面図、電気配線図、上下水道経路図程度。
肝心の構造図や部屋ごとの展開図、照明器具リストまで作ることは少ない。コストがかかるので当然ともいえますが、完成して自分が描いたイメージと違和感が生まれるのもここに原因のひとつがあります。
 主因は高さと照明と色彩の検討不足。たとえば窓の高さひとつとっても、20センチの差が戸外の見え方、部屋の雰囲気、開閉のしやすさ、光の入り方などに予想外の差異を生みます。照明も配置や器具のデザインで雰囲気がまったく別のものになります。ひとつ間違えればすべてが陳腐、すべてが台無し。これらの検討には展開図や照明プランが不可欠です。
 どんなにすぐれた建築家でも他人のイメージの内部にまで入ることはできないので、設計を他者に委ねること自体が違和感の母体になります。住宅程度の規模ならイメージの検証は自分で行なうのが近道でしょう。わたしは夢を自分で具体化することにしました。2000年1月のことです。

 図面を描いたり直したりしながら専門書を読んでいるうちに2年が過ぎました。分類すると次の4種類になります。

@技術書
A法律・施行令関係
B建築家が書いた読み物 
C作品集(写真、図面、スケッチなど)

@ とAは理科系のアプローチ、BとCは文科系のアプローチ。
 先行したのは文科系のアプローチで、一流の建築家が何を考えどのような住宅をつくってきたか、名作といわれる住宅の数々とそれらの共通項などを、できるだけ広く深く知ることが、あるべき家の概念を構想するうえでとても有効でした。
 この学習はとても楽しいエンターティメント。情報化社会の恩恵ですぐれた住宅建築家の精髄をいともたやすく参考にすることができました。といってもやたら難しいことではなく、良い住宅ほど発想がシンプルでどこか面白半分、稚気もあることを知りました。

 特に熱心に読んだ建築家は清家 清、宮脇 檀、中村好文、吉田桂二、吉村順三。
 個性的でありながら奇を衒わないので安心して参考にでき、パクルことができました。また、やさしい言葉で書かれているので楽しんで読むことができました。
 構想が進むにつれて座右の書となったのが吉田桂二の著作。構造を木造軸組に決めていたので具体化のプロセスで参考にしやすかったこともありますが、木造を極めた達人の、抑制の効いた語り口やさりげない物言いの底に、吉田手法あるいは吉田標準とでも云うか、ディテールと架構とデザインを渾然一体とする神技的な手の内が公開されており、それが作品の美を具現化しているからでした。
 「岡山の家」「大垣の家」は、木で作られた住宅の世界最良モデルといえます。世界遺産クラス。

(2)暮らしかたを構想する。

 これは家を建てようとする人が避けて通ってはならない普遍的な課題です。(いけないことはないが先に暮し方を構想しないと失敗しやすい。ヘンテコリンな住宅になってしまいます)
 家族や自分自身の価値観や生活観をどのように住宅に現実化するかということなので専門家に任せることのできない領域ですね。

誰が、いつまで、どのように暮らすのか。そのひとが住むうえで大切なものはなにか。

 現代では通常25年〜30年の単位で家族構成が変わると考えてよいでしょう。誕生から結婚まで、結婚から子育ての時代、リタイア後の時代。
人は自分で思っているより早く年をとります。こうした変化に対応するにはどのような住宅がのぞましいでしょうか。
 ひとつの解として住宅メーカーが二世帯住宅を提案していますが迂闊に乗るのは考えもの。生活の細部で世代間ギャップが顕在化します。これを埋めるためにお互い相当な努力、意識的な善意と言葉の選択、忍耐と笑顔などメンタルなエネルギーが必要で、それでもうまくいくことは少なく疲労も大きいようです。
 定年をひかえた世代のニーズは、2世帯住宅のような厄介なものではなく、住んで気持ちがよい質感の高い小住宅ではないでしょうか。

 定年後、死が比較的近いのでそのプロセスで身体の不自由も想定しておかなくてはなりません。また夫婦が同時に死ぬことはないので片方が残ってすこし長く生きることになります。(通常妻が10年ほど長く生き、先立たれた夫の平均余命は3年ほど。男はハッピー)

 これを前提にした配慮や、暮らしの器としての住宅が気持ちの面でもお金の面でも負担にならないことが大切です。

 そして、できるだけ子供や地域の世話にならずに暮らせる要件を、可能なかぎり設計に織り込むことも欠かせません。具体的には高齢者への配慮という概念で、施行令で多様な角度から規定されています。これを紹介するのはリポートの主旨ではないので省略しますが、要は安全と衛生、動線がコンパクトで住むための手間とコストがかからないこと。
 わたしの場合は定年後に夫婦で暮らす家であり、直近の用は母親の高齢化対応です。子供二人は結婚して別に暮らしているので、たまにあそびに来たときの臨時の寝室をスペースとして確保すれば充分。
 田舎付き合いの煩雑もありますが、趣味の焼き物、春の摘み菜、夏のアユ釣り、秋のキノコ、冬は篭り、見よう見真似で四季の野菜作り。先述のロケーションに鑑み、結構おしゃれでつつましい里山暮らしもできそうです。

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※実際の書籍の内容とは異なる場合があります。

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